街を歩いていると、本格的な登山用ジャケットに、トレイルランニング用の靴。大きなリュックまで背負っているのに、向かう先は山ではなくカフェ。
「これから登山かな?」と思ったら、実はそのまま街着だった。そんなスタイルを、ファッションでは「ゴープコア(Gorpcore)」と呼びます。
名前だけ聞くと少し強そうですが、意味は意外とシンプル。アウトドアで使う機能的な服や靴を、普段のコーディネートへ取り入れるファッションです。
防水ジャケットは雨の日に助かり、ポケットの多いパンツは荷物を入れやすく、トレイルシューズはたくさん歩く日に楽。見た目だけでなく、本当に役立つところも人気の理由です。
今回は、ゴープコアの語源や流行した経緯、代表的なアイテムとブランド、大人でも取り入れやすい着こなしまで、いっしょに見ていきましょう。
ゴープコアとは?
ゴープコアとは、登山、ハイキング、キャンプ、トレイルランニングなどで使う機能服を、街のファッションとして着るスタイルです。
マウンテンパーカー、フリース、ダウンジャケット、カーゴパンツ、ハイキングシューズなどが代表的。雨や風に対応する素材、動きやすい立体的な形、たくさんのポケットといった、アウトドア用品ならではの機能美を楽しみます。
ただ山の服をそのまま一式着るのではなく、デニム、スウェット、スカート、きれいめなバッグなど、街の服と組み合わせるのがポイントです。
英語では「Gorpcore」と一語で書かれることが多く、日本語では「ゴープコア」「ゴープ・コア」「ゴアプコア」などの表記が見られます。一般的な読み方はゴープコアです。
「GORP」って、いったい何?
ゴープコアの「GORP」は、欧米で登山やハイキングの途中に食べるトレイルミックスの愛称です。ナッツ、レーズン、チョコレートなどを混ぜた、手軽にエネルギーを補給できるおやつですね。
よく紹介される語源が、「Good Ol’ Raisins and Peanuts」。日本語にすれば「昔ながらのレーズンとピーナツ」といった感じです。
そこへ、ある美意識や文化を表す「core」を組み合わせて、「ハイキングのおやつを持っていそうな人たちのファッション」という、少し冗談めいた名前が生まれました。
レーズン柄の服を着るわけではありません。おやつの名前から、アウトドア好きの雰囲気全体を連想させているのです。
言葉が生まれたのは2017年
「ゴープコア」という言葉は、2017年5月に米ファッションメディア『The Cut』でライターのジェイソン・チェンさんが使ったことで広まったとされています。
当時、A$AP RockyやDrakeなどのアーティストが、ダウンジャケットやハイキング向けの服を街で着ていました。これまでなら「完全に山用」と思われたものが、ストリートファッションとして新鮮に見え始めた時期です。
その後、Frank OceanやDrakeがアークテリクスを着用したことなども注目され、「アウトドアブランド=山へ行く人だけのもの」という印象が変わっていきました。
GQのアークテリクス特集では、Frank Ocean、Drakeらの着用と、TikTokでジャケットの防水性をシャワーで試す動画が広がったことが紹介されています。
なぜゴープコアが流行したの?
機能がそのまま日常で役に立つ
軽い、防水性がある、風を通しにくい、乾きやすい、動きやすい。アウトドア用品の機能は、山だけでなく街でも便利です。
突然の雨、自転車通勤、子どもとの公園、旅行、長時間の散歩。日常にも小さなアウトドアのような場面は意外と多いですよね。
ゆったりした服と相性がよかった
オーバーサイズのジャケットや太めのカーゴパンツは、近年のリラックスしたシルエットになじみます。体を締めつけず、重ね着もしやすいので、見た目と着心地を両立できます。
アウトドアブランドのデザインが洗練された
以前のアウトドア服には、目立つ色や大きなロゴを使った“道具らしい”印象もありました。現在は黒、グレー、ベージュなど街で着やすい色や、すっきりした形も増えています。
一方で、あえて鮮やかなオレンジやライムグリーンを差し色にし、本来のアウトドアらしさを楽しむ着こなしもあります。
有名人とSNSが山の服を街へ連れてきた
海外アーティストやモデルが機能服を私服として着用し、その写真がSNSで広がりました。TikTokでは、防水ジャケットへ水をかける動画や、トレイルシューズを街の服と合わせる投稿も増えました。
Fashionistaは、2017年に言葉が付けられる前からアウトドア風の装いは存在しており、A$AP RockyやFrank Oceanらの着用で2010年代半ばに一般化したと解説しています。
Fashionista「The New Wave of Gorpcore」
ゴープコアの代表的なアイテム
シェルジャケット
雨や風から体を守る薄手のアウターです。フード、止水ファスナー、裾を絞るコードなど、機能がそのままデザインのアクセントになります。
黒なら普段着になじみやすく、明るい色ならコーディネートの主役になります。ゴアテックスは有名ですが、ゴープコアだから必ず高価な防水素材を選ぶ必要はありません。
フリース
軽くて暖かく、少し毛足のある表情がアウトドアらしさを出してくれます。ハーフジップ、胸ポケット、切り替え配色のデザインが定番です。
デニムと合わせるだけでも形になりますし、きれいめなパンツやロングスカートの外し役にも使えます。
カーゴパンツ・パラシュートパンツ
大きなポケットやゆったりした形が特徴です。裾をコードで絞れるタイプなら、靴に合わせてシルエットを変えられます。
街で使う場合は、すべてのポケットに物を詰め込むより、形を生かしてすっきり着るほうが日常になじみます。
トレイルシューズ
山道を走るためのグリップや安定性を備えた靴です。ごつごつしたソール、コード式の靴ひも、複雑な切り替えが、一般的なスニーカーとは違う表情を作ります。
ゴープコア人気の中で、サロモンのトレイル系シューズは街でもよく履かれるようになりました。同社も、アウトドア製品の機能が日常生活で役立ち、ライフスタイルへ展開した経緯を紹介しています。
小さなショルダーバッグやバックパック
軽いナイロン、体に沿うストラップ、カラビナ、ドローコードなどを備えたバッグです。服を一式アウトドアにしなくても、バッグ一つでゴープコアの雰囲気を足せます。
キャップ・バケットハット
手軽に取り入れられる小物です。撥水素材やあごひも付きなど、機能が見えるものを選ぶと、それらしい印象になります。
よく挙げられるブランド
ゴープコアは特定ブランドの名前ではありませんが、次のようなアウトドア・スポーツブランドがよく知られています。
- ARC’TERYX(アークテリクス)
- SALOMON(サロモン)
- THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)
- Patagonia(パタゴニア)
- Columbia(コロンビア)
- mont-bell(モンベル)
- HOKA(ホカ)
ただし、有名ブランドで全身をそろえないとゴープコアにならないわけではありません。スポーツ店、ファストファッション、古着店で見つけたナイロンジャケットやカーゴパンツでも、十分に楽しめます。
街で着るアウトドア服とは何が違うの?
「それなら、昔からあるアウトドアファッションと同じでは?」と思いますよね。
服そのものは同じことがあります。違いは、山で必要だから着るのか、街のスタイルとして選ぶのかという目的です。
登山では、天候、標高、季節、行動量に合う機能が安全に関わります。ゴープコアでは、そこまでの性能が必要なくても、機能的な見た目や着心地をファッションとして楽しみます。
街でアークテリクスのシェルを着ればゴープコアでも、そのまま山へ行けるとは限りません。登山に使う場合は、見た目ではなく製品の用途と山の条件を必ず確認しましょう。
テックウェアやアスレジャーとの違い
テックウェア
テックウェアも機能素材や多くのポケットを使いますが、黒を中心にした都会的・未来的な見た目が強めです。軍用品やサイバーパンクを思わせるデザインもあります。
ゴープコアは山、森、ハイキングが出発点。カーキやベージュ、鮮やかなアウトドアカラーも使い、少し素朴で自然寄りの雰囲気があります。
アスレジャー
アスレジャーは、ヨガウェア、ジャージー、レギンスなど、ジムやスポーツの服を日常着にするスタイルです。
ゴープコアは、スポーツの中でも特に登山やトレイル、キャンプの道具感が中心。防水シェルやハイキングシューズなど、天候や地面への対応が見えるアイテムを使います。
初心者が取り入れやすいコーデ
いつもの服+トレイルシューズ
まずは靴だけ替える方法です。白Tシャツ、デニム、黒パンツなどのシンプルな服へ、ソールに存在感のあるトレイルシューズを合わせます。
服まで機能的にしないため、“登山帰り”ではなく街のコーディネートに見えやすくなります。
マウンテンパーカー+きれいめパンツ
ナイロンのアウターへ、センタープレスのパンツや無地のニットを合わせます。上半身はアウトドア、下半身は都会的にすると、大人も着やすいバランスです。
フリース+ロングスカート
フリースの素朴さと、スカートのやわらかさを組み合わせます。足元をトレイルシューズや厚底スニーカーにすれば、甘さを抑えたゴープコアになります。
カーゴパンツ+シャツ
カーゴパンツに、襟のある白シャツやコンパクトなニットを合わせます。全身をだぼっとさせず、上半身をすっきりさせると、大人っぽくまとまります。
ナイロンバッグだけ取り入れる
服装を変えるのに抵抗があるなら、ショルダーバッグやキャップから。黒やグレーなら通勤や買い物にもなじみます。
30代・40代が“本気の登山帰り”に見せないコツ
アウトドアアイテムは一度に1〜2点
シェル、フリース、カーゴパンツ、登山靴、大型リュックを全部合わせると、実際の登山装備に近づきます。街着なら、まず主役を一つ決めましょう。
色を3色ほどに絞る
黒、グレー、カーキ、ネイビー、ベージュなどを中心にすると落ち着きます。明るい色は、ジャケットか靴の一か所だけにすると使いやすいでしょう。
きれいめな物を一つ混ぜる
レザー調のバッグ、白シャツ、スラックス、シンプルなアクセサリーなどを足すと、街へ向かう服だと伝わりやすくなります。
サイズは大きすぎなくて大丈夫
若い世代の着こなしでは、大きなシェルと太いパンツを合わせることもあります。無理に同じ形へ寄せず、自分の肩幅や身長に合うサイズを選んだほうが、機能も見た目も生かせます。
高価な本格装備を買わないとダメ?
そんなことはありません。本格的な山岳用ジャケットは、厳しい天候に対応する素材や構造を備えているため、価格も高くなります。街で雨を少し避けたいだけなら、そこまでの性能が必要とは限りません。
買う前に考えたいのは、次の3点です。
- 本当に登山でも使うのか、街だけで使うのか
- 防水性、防風性、通気性のどれが必要なのか
- 手持ちの服と何通り合わせられるか
流行だけで高価な服を買うより、まずは手持ちのフリース、雨具、スニーカーを組み合わせてみるのがおすすめです。家に眠っていたアウトドア用品が、急に街着として新鮮に見えるかもしれません。
ゴープコアはもう古い?
ゴープコアは2017年に名前が生まれ、2020年代前半に大きなトレンドとなりました。ただ、2025年から2026年にかけても、アウトドア由来のシューズや機能的なアウターは街で使われ続けています。
流行の最前線として“全身ゴープコア”を強調する着こなしは落ち着いても、防水ジャケット、トレイルシューズ、カーゴパンツなどは日常の定番として残りました。
つまり、言葉の新鮮さは変わっても、「便利な山の服を街で着る」という考え方は、簡単にはなくならなそうです。
まとめ
ゴープコアとは、登山やキャンプで使う機能的な服・靴を、街のファッションとして楽しむスタイルです。
名前はトレイルミックスの愛称「GORP」に由来し、2017年に『The Cut』の記事から広まりました。アークテリクスのシェル、サロモンのトレイルシューズ、フリース、カーゴパンツなどが代表的です。
とはいえ、ブランドで全身を固める必要はありません。いつものデニムにトレイルシューズを合わせる、白シャツの上にナイロンジャケットを羽織る。それだけでもゴープコアの雰囲気は楽しめます。
「山へ行かないのに山の服?」と思っていた方も、雨の日や旅行で一度着てみると、人気の理由が分かるかもしれません。おしゃれ以前に、軽くて動きやすくて、かなり便利なんですよ。

